変わること、換えられないこと。
SS / 2006/10/18 (Wed)



その日、彼女は違和感に気づいた。

何かが体の中で変わってしまう感覚。

そう、自分自身が別の何かに変わってしまおうという感覚。

だけど、彼女は元気な娘だった。
気丈な娘だった。

そして、笑うのが得意な少女だった。

この星に来てから、共に住むようになった少女たち。
自分たちをこの星に導いてくれた少女。

大切な家族。大切な仲間。

心配はかけたくなかった。

だから、気づかれないよう、悟られないよう、彼女はいつも通りに、過剰に笑った。

きっと誰も気づかなかった。


夜。

彼女はそっと家を抜けた。

彼女をそうした人は、決して悪いだけ人間ではなかったが、ろくでもない人間だった。

そんな人間に変えられた自分自身もまた、ろくでもないものに変わってしまうのかもしれない。

元々は、戦うための道具へと変わることを求められていたらしい。

彼女は失敗作と呼ばれていた。
役立たずとも言われていた。

長い間一人きりにされていた。

……もう要らなくなって、もう一人きりじゃなくなって。

そんな時に、ようやく彼女は失敗作で無くなってしまうらしい。

そんなのは嫌だった。
そんな自分を見られるのは嫌だった。
でも、皆に嫌われるのはもっともっと嫌だった。

だから一人で飛び出した。

少し怖くて、少し寒くて、そして少し寂しくて、体は自然と震えていた。


月を隠していた雲が晴れた頃、

「おまちなさい」

と、彼女の家族で一番小さい少女が彼女を呼び止めた。

あの時もそうだった。少女はこういうことにとてもとても敏感だった。

彼女は言った。
朝からの違和感。変わってしまうかもしれないこと。そして、このままどこかに行ってしまおうと思っていたこと。

「馬鹿」

と言った。

本当のことだとおもった。でも少し気にしていたので少しはらがたった。

「みんな、貴女のことを心配してたのよ?」

彼女の大げさな振る舞いは、ばれていたらしい。

だけど、みんなで追いかけるのは逆に気にするだろうと、彼女一人が代表できたらしい。

それこそ大げさなんじゃないだろうか。

自分一人のためにみんながそこまで慎重になるなんて。

「帰りましょう? みんな待ってるわ」

首を横に振る。

みんなに嫌われたくは無い。

「馬鹿」

また言われた。

「貴女が変わることよりも、あなたが居なくなることの方が、みんな何倍も悲しいの」

そうなのだろうか。

そうかもしれない。

わたしも一人ぼっちの時は悲しかった。

人が居なくなるのは悲しかった。

「それに、一人ではどうにも出来ないかもしれないことも、みんな居れば何とかなるかもしれないでしょ」

そうなのだろうか。

そうかもしれない。

私たちをこの星に招いた少女も、みんなの力を合わせてここまで来たと言っていた。

だけど、でも……。

「さぁ、帰りましょ」

差し出された少女の手。

恐る恐る、ゆっくりとその手をつかむ。

あぁ、この少女は、皆よりも小さいのに、その手はとても大きい。

そう思った時、彼女はからだの震えが収まっていることに気がついた。


end









橙汁さん製作、SUGURIからカエとナナコの話です。
何となくカエの話が浮かんでしまったので、メモ書き程度に。

元々はカエが犬に変身しちゃってさあ大変! というドタバタコメディが浮かんでいたはずなのに……
うーん